辞める若者 病める若者 2011.10

完全ゆとり教育世代が就職してから数年が過ぎた。企業の人事担当者からは悲鳴と落胆の声がそこかしこから聞こえてくる。仕事では、いやだ、できません、ではなく、やらせてください。努力してみます。のはずである。それが今は違うようだ。
新人教育担当係は社員研修の一環として、叱ったり、時には怒鳴ったりすることもあるだろう。すると、新人は翌日から数日間もふさぎ込んだり、出社しなくなったり、辞めていったりする者がいるそうだ。少し前は新人が残業や先輩との飲み会を拒んだりしていたことが問題になっていたが、とうとう若年退職が社会問題となる時代になってしまった。

ゆとり教育は、学校のみならず家庭教育も蝕んだ。教師は指導者ではなく支援者へ。将来に向けてやりたいことをやろう、やりたくないことはやらなくてもいい。好きな道へ進めばいい。そんな風潮のなかで子供達は社会へ巣立っていった。
学校生活時代、厳しい部活動へもあまり参加しないため、先輩・後輩としての立ち居振る舞いも経験せず、理不尽な我慢を強いられることもほとんどない。顧問や先輩に怒鳴られたり、叱られたりすることもない。最近は叱ると部員が減るので、優しい顧問が増えたと聞く。
若者は、親以外の人から叱られたり、注意されたりした経験がほとんどないのだ。いや、親からさえも怒鳴られたことがない若者が増えてきている。

そんな若者が就職して、先輩に指導されると・・・幼児のようにびっくりして固まってしまって、すみませんの一言も言えない。貧血を起こしてその場でうずくまる。翌日から3日間位はふさぎ込んでしまったり、欠勤が続いたりする。行方不明になって退職するものもおり、大変のようだ。指導した先輩は上司から何をやってるんだと逆に注意される始末である。
一流企業では、新人を辞めさせないための「新人接し方講座」なるものを立ち上げ、若者におもねる作戦だ。大企業であっても学力が優秀であっても、このような若者の性質は関係がないようだ。退職を食い止めても将来の戦力に育つのだろうか。

ゆとり時代に「叱るな」「ほめて育てる」「躾をしない(躾は強制だから)」というような教育方針が注目されたりもした。その産物が現代の若者であるなら、文部科学省・教育専門家は許しがたい大罪を犯したことになる。離職を繰り返す彼らは、やがて生活保護等の福祉の世話になる確率が高い。ゆとり教育22年間の壮大な実験は失敗に終わり、立て直す方向性が示されたが、授業時間は以前の時間数には程遠い。(幼稚園・保育園はゆとり教育のままだが)
国土も資源も少ない国・日本が世界の中で生き抜いていくためには世界一の技術力を維持していかなければならない。それを支えていくのが教育力である。教育の方向性を見誤ってはいけない。