~ 世界子供白書 2001年 ~

≪ 能力は子供が3歳になるまでの早い時期に決まる ≫
この世界子供白書2001は、「子供の権利条約」の理念に基づきまとめられている。日本ではメディアさえもほとんど取り上げなかった。国連総会でこの条約は1989年に採択され、日本は1994年に批准した。日本は4年半もの間、批准しなかったのはなぜだろうか。
近年、日本の保育の業界で、もてはやされている言葉がある。「子供の最善の利益を守り、子供の生存と十分な発達の権利、子供が自分達の生活に影響するすべての事柄に参加する権利を保障する。」[ECDよりECD(Early Childhood Development=幼児開発の略=子供の早期ケアと初期教育とも子供の早期教育とケアとも 子供の早期開発とも呼ばれている)は出生時から8歳になるまでの子供とその親や保護者のための政策とプログラムに関する包括的なアプローチを指す]というものだ。この文言だけが一人歩きし、曲解ともいえる不可思議な教育観が日本だけに蔓延している。
「子供の権利条約」や世界子供白書のほんの一文だけを抜き出し、スローガンにしているかのようだ。「世界子供白書2001」を読むと日本が批准しにくかった(したくなかった?)理由が見えてくる。なぜなら、これまでの日本の保育・教育施策(0歳~9歳)とはずいぶん矛盾する事実が白書には語られているためだ。
この国連の白書を直視しようとしない日本政府、保育・教育団体やマスコミは「日本の子供達」を「日本」をいったいどうしようというのだろうか。国連が大好きな“日本人”も多いはずだが・・・
以下は「世界子供白書2001」からの抜粋である。

LinkIcon「世界子供白書2001」ユニセフ(国連児童基金) 2000年12月12日発行
~幼い子どものケア~ The State of the World’s Children 2001 – EARLY CHILDHOOD

 子供が出生から最初の3年間をどのように過ごすか、それはその後の子ども時代、青年時代がどのようなものになるかという問題に大きな影響をおよぼします。

消すことのできない刻印 (P13より)

早期ケアや養育は子供がどのように成長して成人するかや、どのように能力を伸ばし、学習して、感情をコントロールできるようになるかに、決定的で拭い去ることのできない影響を与える。
人生ののちの段階で基礎的な能力を伸ばすことは確かに可能だが、成長するにしたがって、より困難になる。乳幼児期に基本的ニーズを満たされない子供はしばしば不信感を抱いて、自分や他人を信じられなくなる。早い時期に指導を受けて自分の行動を観察し制御するようにならなければ、就学するときに不安に陥り、怯え、衝動的になり、行動が支離滅裂になり得る。
脳はすばらしい自己保護と回復の機能をもっている。だが子供が生後最初の数年間に受ける愛情に満ちたケアや養育、あるいは、そうした大事な経験がないことが幼い心に消すことのできない刻印を残すことになる。

なすべき選択 (P9より)

子供が3歳になるまでに脳の発達がほぼ完了する。新生児の脳の細胞は多くの成人が何か起こっているかを知るずっと前に増殖し、シナプス(神経細胞相互間の接続部)による接合が急速に拡大して、終生のパターンがつくられる。わずか36ヵ月の問に子供は考え、話し、学び、判断する能力を伸ばし、成人としての価値観や社会的な行動の基礎が築かれる。

生後の何年かは子供の人生にとって、非常に大きな変化の時期であり、長期的な影響をもつので、子供の権利の保障は子供の人生のスタートの時点で開始されなければならない。この大事な時期に子供のためにどのような選択をし、行動をするかが、子供の発達だけでなく、国の前進に影響を与える。

人間開発のための妥当なプランは子供の権利を守るための行動をせずに子供時代の18年間が過ぎるのを無為に待つことはできないし、子供の人生をより豊かにするための努力に最も適した出生から3歳になるまでの期間をむだにすべきでもない。

子供時代の初期は、責任ある政府が最大の優先的関心を払って法や政策、プログラム、資金の面での決定を下すに値する。にもかかわらず子供と国の双方にとって悲劇的なことに、この時期の子供に対しては最も関心が払われてこなかった。

0~3歳の時期の重要さ (P11より)

生まれた瞬間やその後の数カ月から数年問は、幼い子供が暮らしのなかで経験する接触、動き、情緒のすべてが脳内で爆発的な電気的、化学的活動に変換され、脳の何十億もの細胞がネットワークに組織され、何兆ものシナプスで結ばれる。子供時代の初期には親や家族やその他の成人との間の経験や対話が子供の脳の発達に影響し、十分な栄養や健康やきれいな水などの要因と同じぐらい大きな影響力をもつ。この期間に子供がどのように発達するかがのちの学校での学業の成否を決め、青年期や成人期の性格を左右する。

乳児は抱かれ、触れられ、愛撫されると、よく成長する。子供に応える暖かいケアがある種の保護機能を果たして、乳児がのちの暮らしで受けるストレスの影響に対してある程度の「免疫」になるようである。だが幼いときの脳の柔軟性はまた、必要なケアを受けられず、飢餓、虐待、放置を経験すると、脳の発達が損なわれ得ることを意味する。

出生前や出生後の数カ月から数年間の子供の暮らしに起こることの影響は生涯にわたって続く(1)。子供が学校や生活全体を通じてどのように学び、人間関係を形成するかを決める、信頼感、好奇心、方向性、自制心、関係の構築、意思疎通や協力の能力など、情緒的知能の主な構成要素のすべてが親や保育施設などの教員や保護者から受ける早期のケアに左右される(2)。もちろん子供が健康や発達を促進し、新しい技能を学び、恐怖を克服し固定観念を変えるのに、遅すぎるということはない(3)。だが、子どもは適切なスタートを切ることができないと、遅れを取り戻したり、もって生まれた可能性を最大限に発揮するのが非常にむずかしくなる。

なぜ投資が必要か:子供の権利や人間開発(4)という大目的が幼児期に投資することの議論の余地のない根拠になる。神経科学も生後の3年間がその後の人生に影響を与えることを立証して、反論の余他のない根拠を示している。
さらに(5)説得力をもつ経済的な論拠もある。生涯にわたって生活水準が高まり、子供が成人してからの生活水準が改善し、教育の遅れを取り戻したり、保健やリハビリテーションのサービスを提供するためのコストが減り、親や保護者が労働市場に自由に参加して所得が増える。

社会的な理由もある。子供の暮らしの最も早い時期に介入することが、社会を分断させている社会的、経済的不平等やジェンダーの不平等を緩和し、従来から排除されてきた人々を参加させるうえで役立つ。
政治的理由もある。世界経済のなかでの国の立場はその国の国民の能力に左右され、能力は子どもが3歳になるまでの早い時期に決まる。

脳の早期発達:創造力の触発 (P12より)

母親が手のひらで隠していた顔を突然のぞかせたとき、強い期待をもって見つめていた赤ちゃんが喜びの声をあげるのを見たことがあるだろうか。この簡単に見える動作が繰り返されるとき、発達中の子ともの脳のなかの数千の細胞が数秒のうちにそれに反応して、大いに劇的な何かが起こる。脳細胞の一部が「興奮」し、細胞同士をつなぐ接合部が強化され、新たな接合が生まれる。
脳内の細胞の接合は生後3年間に爆発的に増殖し、子どもは目覚めている事実上すべての瞬間に新しい事柄を発見している。新生児は1000億個の脳細胞をもつが、大部分が互いに接合されておらず、脳が機能するためには神経細胞の相互間の何兆もの接合部(シナプス)によって脳細胞がネットワークに組織されなければならない。
人体の奇跡ともいえる脳細胞の接合は部分的には遺伝子に、部分的には幼いころに起こったことに左右される。さまざまな経験が幼い脳の発達の仕方に影響するが、早期のケアや養育ほど重要なものはない。

デリケートな踊り

子供の脳は生活の物語が書き込まれるのを待つ真新しい石板でもなければ、非情な遺伝子が計画し、支配する配線済みの回路でもない。
脳の発達は脳細胞分裂が始まるその瞬間から、遺伝子と環境とのデリケートな踊りである。遺伝子は正常な発達の道筋を事前に決定するが、発達の質は妊婦や授乳中の母親、乳児に影響を与える環境要因によって左右される。栄養や健康、きれいな水、そして、暴力や虐待、搾取、差別のない安全な環境などがすべて脳の成長や発達の仕方に影響を与える。
人間の脳のユニークさはその大きさや複雑さにあるわけではなく、脳が経験との間で相互に強く影響し合う点にある。すべての触感、運動、情動が電気的、化学的活動に転換され、それが遺伝のはずみを変化させ、子ともの脳のなかの配線の仕方を微妙に変える。脳内の接合の発達ては摂取する食物、耳にする音、物を見る光と同様に人間的な相互作用が重要な役割を果たす。

タイミングの重要さ
人間の生涯には脳が新しい経験に対してとくに開かれ、体験をとくに生かせる時期がある。脳が待つ刺激を受けることなくそうした敏感な時期が過ぎると、学習の機会が大きく失われることがある。
そうした「決定的な期間」がいかに重要で、発達の個々の分野で機会の窓がどれほどの期間、開かれ続けるかについてはなお議論がある。
私たちは人間の脳が柔軟で、生涯を通じて再編の力を保ち、外からの働き掛けでそれを強化できることを知っている。だが脳が子供時代の初期に再び訪れることのないスピードで形成されるという点についてはすでに幅広いコンセンサスがある。

発達に最も適したとき

脳が柔軟だということはまた、否定的な経験や適切で優れた刺激がないことが重大な持続的影響をもち得る時期があることを意味する。発達に最も適したときに子供が必要なケアを受けず、飢餓、虐待、放置にさらされると、脳の発達が損なわれる恐れがある。緊急事態や避難または紛争後の混乱のもとで暮らす多くの子供は深い心の傷を負い、異常なストレスのもとにあり、そのような条件が幼い子供を衰弱させ、少数のシナプスだけを興奮させ、脳の他の部分の活動を停止させる。幼いときにはそうした活動の停止が発達のはずみを失速させる。

予防が最善
子供の暮らしの質を改善するのを手助けするのに遅すぎるということはないが、早期の支援は子供の発達や学習に最も大きな効果をもたらす。適切で時宜を得た質の高いプログラムによって子供に有効な経験をさせ、親を支援することによって、子供の発達を促進することができる。支援には、よちよち歩きの子供たちに物語を読んで聞かせ、最初の子供が生まれたばかりの家庭を訪問するなど、若い父母が新生児の発するシグナルをより正確に理解できるようにするためのさまざまな有効な例がある。

この「世界子供白書2001」は、0~3歳の子育ての重要性を訴えています。キレる子、小1プロブレム、学校・保育園・幼稚園崩壊が起きるのも、最近の日本人が0~3歳の子育て(教育)に関心を払ってこなかったからではないでしょうか。